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【人工膝関節置換術後・判断基準シリーズ】
① 腫れ・可動域制限(正座はできるようになるか)→ 本記事
人工膝関節置換術を受けた後、多くの方が気になるのが、
「膝の腫れはいつまで続くのか」
「正座は、もうできないのだろうか」
「曲げ伸ばしがまだ硬いけれど、これは普通なのか」
という点です。手術によって、変形した関節面など痛みに関係する要因へ対応しても、腫れや可動域制限、違和感がすぐになくなるわけではないため、この期間の過ごし方に不安を感じる方は少なくありません。
この記事では、人工膝関節置換術後に起こりやすい腫れと可動域制限について、一般的な経過の考え方と、正座に対する現実的な見通しを、理学療法士の視点から整理していきます。
Contents
🔵 手術後の腫れは、なぜ・いつまで起こるのか
人工膝関節置換術は、傷んだ関節面を切除し、人工の関節に入れ替える手術です。骨や軟部組織に一定の侵襲が加わるため、術後しばらくは腫れが出ることが一般的とされています。
腫れの主な原因は、手術による組織の炎症反応と、関節内外の水分・血液の貯留です。
この反応は身体が回復するために起こる自然な過程であり、腫れがあること自体を過度に心配する必要はありませんが、腫れの引き方には個人差が大きく、数週間で落ち着く方もいれば、数ヶ月にわたって夕方だけ腫れやすいという方もいます。
一般的には、日中の活動量が多い日や、長時間立っている日に腫れが強く出やすい傾向があります。これは筋肉のポンプ作用が術前より弱くなっていることや、関節周囲の組織がまだ回復過程にあることが影響していると考えられています。
腫れの経過で特に注意したいのは、「良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ落ち着いていく」という点です。一直線に改善するわけではないため、一時的に腫れが強い日があっても、それだけで悪化と判断する必要はありません。
🔵 可動域制限が起きる仕組み
手術後、膝の曲げ伸ばしがすぐに元通りになるわけではありません。可動域制限が起こる背景には、いくつかの要因が重なっています。
まず、手術によって関節周囲の組織に一時的な炎症と腫れが生じるため、物理的に曲げ伸ばしできる範囲が狭くなります。
次に、痛みをかばう反応として、無意識に膝を完全に伸ばしきらない、深く曲げないという動作パターンが定着しやすくなります。さらに、入院期間中の活動量低下により、膝周囲の筋肉が一時的に働きにくくなることも、可動域の戻りに影響します。
これらは特別な異常ではなく、人工膝関節置換術後に多くの方が経験する経過の一部です。ただし、可動域の戻り方や最終的にどこまで曲がるようになるかには個人差があり、手術前の可動域や筋力の状態、年齢、リハビリへの取り組み方によっても変わってきます。
図:人工膝関節置換術後に腫れ・炎症・かばい動作が重なって可動域制限が生じる仕組みを示した図解

🔵「正座ができるかどうか」は何で決まるのか
「正座ができるようになりますか」という質問は、人工膝関節置換術を受けた方から非常によく聞かれる内容です。
結論からお伝えすると、正座ができるようになるかどうかは、人工関節そのものだけで決まるわけではありません。
術前の可動域、術後の膝屈曲可動域、疼痛や腫脹の有無、股関節・足関節の柔軟性、床への座り込み・立ち上がり能力など、複数の要素が関係します。また、人工関節には想定されている最大屈曲角度に違いがあり、この点は執刀医から手術前後に説明を受けている内容が最も正確な情報源になります。
なお、「深く膝を曲げること」と「床に膝をつく(膝立ち)」は、動作としては近くても同じではありません。
正座には、深い膝屈曲、膝への圧迫、足関節の底屈、股関節の屈曲、床への下降・立ち上がり能力など複数の要素が関わっています。人工関節の種類によっては、医学的に禁止されていなくても、瘢痕部の知覚異常や不快感などから、膝立ちや正座に難しさが残ることがあると報告されています。
そのため、正座を目標にする場合は、膝の可動域訓練だけでなく、股関節・足関節を含めた全身の柔軟性や動作パターンを整えていくことが現実的なアプローチになります。「正座ができないから失敗」ではなく、「今の可動域と身体の使い方で、どこまで近づけるか」という視点で経過を見ていくことが大切です。
🔵 可動域回復で焦らない方がいい理由
可動域の数値は分かりやすい指標であるため、「早く角度を伸ばしたい」という気持ちから、無理に曲げ伸ばしを行おうとする方もいらっしゃいます。
しかし、炎症が強い時期に無理な可動域訓練を行うと、痛みや腫れがかえって強くなり、防御的な筋緊張が高まることで、結果的に可動域の改善が遅れるケースがあります。
可動域は「一回でどれだけ曲げられたか」よりも、「腫れや痛みを大きく悪化させずに、少しずつ範囲を広げていけているか」という視点で見ていくことが重要です。
また、可動域の数値だけにとらわれると、日常生活で実際に困っていること(階段が上りにくい、立ち上がりがつらいなど)への意識が薄れてしまうこともあります。可動域はあくまで動作を支える要素のひとつであり、可動域の数値と生活のしやすさは必ずしも比例するわけではありません。
🔵 自宅でできることとできないことの線引き
退院後の可動域訓練や腫れの対応については、医療機関から具体的な指導を受けている場合、その内容が最優先です。ここでは一般的な考え方として、自宅で意識しやすいポイントを整理します。
腫れが強い時期は、安静にする時間と、指導された範囲で動かす時間のバランスを取ることが基本になります。長時間座りっぱなし・立ちっぱなしを避け、こまめに膝の位置を変えることも、腫れの管理に役立つとされています。
一方で、次のような場合は自己判断で様子を見続けず、執刀医や理学療法士に相談することをおすすめします。
・ 急激に腫れや熱感が強くなった
・ 傷口周囲の赤みが広がっている
・ 発熱を伴っている
・ 可動域が急に悪化した、または動かすと今までと違う強い痛みが出る
これらは通常の術後経過とは異なる可能性があるサインです。
🔵 T-performanceでは「評価→整理→順序設計→介入」で考えます
腫れや可動域の状態は、同じ「まだ硬い」という訴えでも、背景にある要因が人によって異なります。
STEP 1|評価する
手術時期、手術方法、主治医からの指示、腫れの程度、可動域の角度、痛みの出方、筋力などを確認します。
STEP 2|整理する
可動域が広がりにくい理由が、組織の炎症段階にあるのか、かばい動作の定着にあるのか、股関節・足関節の硬さにあるのかを整理します。
STEP 3|順序を設計する
炎症や腫れが強い時期は、痛みや腫れを大きく増悪させるような過度な可動域訓練は避けながら、医療機関から指導された範囲で曲げ伸ばしを継続します。腫れが落ち着いてきた段階で、可動域訓練と全身の柔軟性づくりをさらに進めていきます。
STEP 4|必要な介入を行う
可動域訓練、股関節・足関節の柔軟性へのアプローチ、姿勢・体幹の評価などを組み合わせ、経過を見ながら次の優先事項を決めていきます。
🔵 経過を確認するときのチェックリスト
以下は、今の経過を整理するための一般的な目安です。診断や医学的判断を目的としたものではなく、状態を整理し、必要に応じて専門家へ相談する材料としてご活用ください。
□ 腫れは日によって波があるが、全体としては落ち着いてきている
□ 可動域は少しずつでも広がってきている、または維持できている
□ 動かした後の痛みが、翌日には大きく引いている
□ 傷口周囲に急な赤み・熱感・発熱がない
□ 日常生活での困りごと(立ち座り・階段など)が少しずつ楽になってきている
※本チェックリストは診断を目的としたものではなく、状態を整理するためのものです。医学的な経過については、必ず執刀医・主治医にご確認ください。
🔵 よくある質問(FAQ)
Q1. 正座は絶対にできるようになりませんか?
一律にはお答えできません。人工関節の種類や手術方法によって想定されている可動域が異なるため、執刀医からの説明が最も正確な情報になります。当施設では、股関節・足関節を含めた全身の柔軟性を整えることで、可能な範囲に近づけるサポートを行っています。
Q2. 腫れがなかなか引かないのですが、マッサージしてもいいですか?
強い炎症がある時期に自己流で強く揉むことは、かえって刺激になる場合があります。医療機関でのケア方針を確認したうえで、専門家の評価を受けることをおすすめします。
Q3. 可動域訓練はどのくらいの頻度で行えばいいですか?
医療機関やリハビリ担当者から指導された内容が優先されます。一律の回数を当施設で提示することは避けており、状態を評価したうえで個別に整理しています。
Q4. 保険リハビリと自費リハビリ、どちらを受けるべきですか?
保険診療と自費リハビリには、それぞれ制度や提供方法の違いがあります。まずは主治医や担当理学療法士の方針を確認することが基本です。そのうえで、退院後の生活動作や個別の目標について継続して確認したい場合に、自費リハビリが選択肢となることがあります。
🔵 まとめ
人工膝関節置換術後の腫れや可動域制限は、多くの方が経験する回復過程の一部です。焦って無理に曲げ伸ばしをするよりも、腫れや痛みの反応を見ながら、少しずつ範囲を広げていく視点が大切になります。
正座については、人工関節の種類や身体の状態によって個人差があるため、一律の見通しをお伝えすることはできませんが、股関節・足関節を含めた全身の柔軟性を整えることで、可能な範囲に近づけていくことは可能です。
「腫れがなかなか引かない」「可動域の戻りに不安がある」と感じている方は、一度身体の状態を評価してもらうことで、今の経過が回復過程の範囲内なのか、専門家に相談すべき段階なのかを整理できます。
T-performanceでは、理学療法士が可動域・筋力・全身の連動性を評価し、術後の経過に合わせたサポートを行っています。「今の経過が順調なのか分からない」という段階でも、まずはご相談いただけます。
初回体験:60分 5,500円(税込)
【人工膝関節置換術後・判断基準シリーズ】
① 本記事(腫れ・可動域制限)
監修者
前田 幸亮 T-performance代表/理学療法士
– 理学療法士
– Spine Dynamics療法 上級認定セラピスト
– JCCA認定アドバンスドトレーナー
– JCCA認定ベーシックインストラクター
– 認定臨床栄養医学指導士
整形外科・回復期リハビリテーション領域での臨床経験を経て、現在は静岡市を拠点に、退院後・生活期の自費リハビリを中心とした支援を行っています。
※本記事は人工膝関節置換術後の腫れ・可動域・正座に関する一般的な情報提供を目的としています。適切な可動域訓練の内容や範囲は、手術方法、人工関節の状態、術後経過などによって異なります。手術を受けた医療機関・主治医から指示されている内容を最優先してください。