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【人工膝関節置換術後・判断基準シリーズ】
② 杖なしで歩く・階段昇降までの経過目安 → 本記事
人工膝関節置換術を受けた後、退院が近づくにつれて気になるのが、
「杖はいつまで必要なのか」
「階段はいつから、どうやって上ればいいのか」
「周りの人は自分より早く杖が外れている気がする」
という点です。歩行の自立度は目に見えて分かりやすい分、他の人と比べて不安になりやすいテーマでもあります。
この記事では、人工膝関節置換術後の杖なし歩行と階段昇降について、一般的な経過の考え方と、焦らず進めるための視点を整理していきます。
Contents
🔵 杖が必要な期間に一律の正解がない理由
「手術から〇週間で杖なしになる」という一律の目安を提示することは、実際には適切ではありません。杖を使う期間は、手術の術式、手術前の筋力や歩行状態、年齢、リハビリの進み方、そして日常生活でどの程度歩く機会があるかによって大きく変わります。
インターネットやSNSでは「〇週間で杖なしになった」という体験談を目にすることもありますが、これはあくまでその方個人の経過であり、同じ手術を受けたからといって同じ期間で同じ状態になるとは限りません。他の方の経過と比べて焦ることは、かえって歩き方のバランスを崩す要因になることもあります。
重要なのは、期間そのものではなく、「今の歩行が安定しているかどうか」という視点で経過を見ていくことです。
🔵 杖を外す判断で見ているポイント
杖を外すタイミングを考えるうえで、リハビリの現場で確認している主なポイントは次のようなものです。
一つは、片脚で体重を受け止めたときに、膝がぐらつかず安定して支えられているかどうかです。杖は、この支持性が不十分な間、転倒のリスクを減らすための重要な役割を担っています。
もう一つは、歩行スピードや歩幅が左右で大きく変わらず、痛みをかばうような歩き方になっていないかという点です。痛みをかばう歩き方が残ったまま杖を外すと、その歩き方が癖として定着し、後から修正が難しくなることがあります。
さらに、屋外の不整地や人混みなど、屋内よりも負荷の高い環境でも安定して歩けるかどうかも、判断材料のひとつになります。
これらは医療機関やリハビリ担当者が実際の歩行を見ながら評価する内容であり、自己判断だけで杖を外す・外さないを決めることはおすすめしません。
図:人工膝関節置換術後、片脚支持の安定性・左右差のない歩行・環境への適応という3つの視点で杖の要否を評価する仕組みを示した図解
🔵 階段昇降で意識したい考え方
階段昇降は、平地歩行に比べて片脚により大きな負担がかかる動作です。そのため、平地を安定して歩けるようになった後の段階として位置づけられることが一般的です。
階段を上るときは一般的に手術していない側の脚から上り、下りるときは杖や手術した側の脚から先に下ろす方法が用いられます。
これは、回復途中の手術側に必要以上の支持力や膝伸展筋力を求めず、安全性を確保するための方法です。上段に残る非手術側の脚で身体を支えながら、手術側を先に下段へ出すことで、手術側にかかる負担をコントロールしやすくしています。
ただし、これはあくまで一般的な考え方であり、実際の術式や筋力の回復状況によって、医療機関から個別に異なる指導を受けている場合は、そちらが優先されます。
手すりを使うことは、決して「まだ自立できていない証拠」ではありません。手すりを使いながら安定したフォームで昇降できることは、将来的に手すりなしでも安定して昇降するための土台になります。
🔵「一段ずつ・手すりを使って」を焦って飛ばさない理由
退院後、周囲の目や「早く元通りになりたい」という気持ちから、まだ一段ずつの昇降が安定していない段階で、無理に交互に足を出して昇降しようとする方がいます。
この段階を焦って飛ばすと、膝が支えきれずに崩れそうになる、かばうような不自然なフォームが身についてしまう、といったことが起こりやすくなります。一度身についた代償的な動作パターンは、後から修正するのに時間がかかることが少なくありません。
「一段ずつ・手すりを使って」安定してできるようになってから、次の段階(交互の昇降、手すりなし)に進むという順序を守ることが、結果的に早い回復につながります。
🔵 早く杖を外すことを急ぐリスク
杖を外すことは、回復の「ゴール」のように感じられやすいテーマですが、支持性が十分でない段階で無理に杖を外すと、転倒のリスクが高まるだけでなく、痛みをかばう歩き方が定着しやすくなります。
また、一度転倒を経験すると、その後の歩行に対する不安が強くなり、かえって活動量が低下してしまうケースもあります。杖を使うことは後退ではなく、今の身体を安全に支えるための手段であるという理解が、結果的に回復を後押しします。
🔵 T-performanceでは「評価→整理→順序設計→介入」で考えます

杖が外れる時期や階段の安定度は、同じ「まだ不安」という訴えでも、背景にある要因が人によって異なります。
STEP 1|評価する
手術時期、手術方法、主治医からの指示、片脚での支持性、歩行スピード・歩幅の左右差、筋力、バランス能力などを確認します。
STEP 2|整理する
歩行が不安定な理由が、支持性そのものの不足にあるのか、痛みをかばう動作パターンの定着にあるのか、環境(屋外・不整地)への適応の問題にあるのかを整理します。
STEP 3|順序を設計する
屋内での安定した平地歩行 → 屋外歩行 → 手すりを使った階段 → 手すりなしの階段、というように、負荷の低い環境・動作から段階的に進めます。
STEP 4|必要な介入を行う
片脚支持の練習、歩行フォームの評価と修正、階段昇降練習などを組み合わせ、経過を見ながら次の優先事項を決めていきます。
🔵 経過を確認するチェックリスト
以下は、今の経過を整理するための一般的な目安です。診断を目的としたものではなく、専門家への相談材料としてご活用ください。
□ 屋内では、痛みをかばわずに一定の距離を歩けている
□ 片脚で体重を受けたときに、大きなぐらつきがない
□ 階段は手すりを使って一段ずつ、安定した昇降ができている
□ 歩いた後、翌日に強い痛みや腫れが残っていない
□ 屋外や人混みなど、環境が変わっても大きな不安なく歩けている
※本チェックリストは診断を目的としたものではなく、状態を整理するためのものです。杖の使用終了や活動範囲の拡大については、必ず執刀医・理学療法士にご確認ください。
🔵 よくある質問(FAQ)
Q1. 周りの人より杖が外れるのが遅い気がして不安です。
杖が外れるまでの期間は、術式や手術前の状態、年齢によって個人差が大きく、他の方と比較することにあまり意味がありません。今の歩行が安定して安全かどうかを基準に考えることをおすすめします。
Q2. 自己判断で杖をやめても大丈夫ですか?
支持性が十分でない段階で杖をやめると、転倒のリスクが高まる可能性があります。医療機関やリハビリ担当者の評価を受けたうえで判断することをおすすめします。
Q3. 階段の上り下りの順番(どちらの脚から)を間違えるとよくないですか?
一般的な考え方はありますが、術式や個別の状態によって指導内容が異なる場合があります。医療機関から具体的な指導を受けている場合は、そちらを優先してください。
Q4. 杖が外れた後も、リハビリは必要ですか?
杖が外れることと、身体の使い方が十分に整っていることは、必ずしも同じではありません。かばい動作が残ったまま活動量だけが増えると、他の部位に負担が及ぶこともあるため、継続的な評価をおすすめするケースもあります。
🔵 まとめ
人工膝関節置換術後、杖なしで歩けるようになるまでの期間や、階段昇降が安定するまでの経過には、大きな個人差があります。他の方の経過と比較して焦るよりも、「今の歩行が安定して安全かどうか」を基準に、一段ずつ段階を踏んでいくことが、結果的に回復への近道になります。
「杖がなかなか外れない」「階段の昇降に不安が残っている」と感じている方は、一度歩行の状態を評価してもらうことで、今の段階で何を優先すべきかが整理できます。
T-performanceでは、理学療法士が歩行・階段昇降の動作を評価し、術後の経過に合わせたサポートを行っています。「今の経過が順調なのか分からない」という段階でも、まずはご相談いただけます。
初回体験:60分 5,500円(税込)
【人工膝関節置換術後・判断基準シリーズ】
② 本記事(杖なし歩行・階段昇降の経過目安)
監修者
前田 幸亮 T-performance代表/理学療法士
– 理学療法士
– Spine Dynamics療法 上級認定セラピスト
– JCCA認定アドバンスドトレーナー
– JCCA認定ベーシックインストラクター
– 認定臨床栄養医学指導士
整形外科・回復期リハビリテーション領域での臨床経験を経て、現在は静岡市を拠点に、退院後・生活期の自費リハビリを中心とした支援を行っています。
※本記事は人工膝関節置換術後の杖の使用・階段昇降に関する一般的な情報提供を目的としています。適切な歩行方法や杖を外す時期は、手術方法、術後経過、主治医の方針などによって異なります。手術を受けた医療機関・主治医から指示されている内容を最優先してください。