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人工股関節手術後、退院してから日常生活で困っていませんか?
人工股関節全置換術(THA)後、「歩くことはできるようになったけれど、生活ではまだ困る」という方は少なくありません。
階段が怖い、靴下を自分で履けない、靴を履くときに前へかがみにくい、床に座れない、床から立ち上がれない、お風呂に入りにくい、車への乗り降りが怖い、物を床から拾えない——といった悩みです。
人工股関節手術後のリハビリでは、「歩けるようになること」だけがゴールではありません。実際の生活で「自分でできることを増やす」ことも非常に重要です。この記事では、人工股関節手術後に困りやすい日常生活動作について、理学療法士の視点から整理します。
なお、「どの動作が脱臼リスクにつながるか」という機序については、人工股関節手術後に注意したい動作で詳しく解説しています。ここでは実際のやり方・工夫を中心に扱います。
🔵 日常生活動作は「できる・できない」だけで考えない
「靴下が履けない」「床へ座れない」という場合、単純に股関節が硬いからとは限りません。
日常生活動作には、股関節の動き、筋力、バランス、骨盤の動き、体幹の柔軟性、膝や足首の動き、痛み、脱臼への不安、手術前からの動作習慣など複数の要素が関係します。そのため、動作だけを繰り返し練習するのではなく、なぜ難しいのかを確認することが重要です。
🔵 まず確認したいのは「手術後の注意事項」
人工股関節手術後の日常生活動作を考えるうえで、最初に確認したいのが、主治医・手術を受けた医療機関からの指示です。
人工股関節では、後方系、前方系、前外側・側方系など手術進入路が異なる場合があり、注意する股関節の方向も同じとは限りません。「ネットでは大丈夫と書いてあったからやってみる」ではなく、主治医からの指示を優先してください。
① 人工股関節手術後の階段
退院後、「階段は上れるけれど怖い」という方は多くいらっしゃいます。階段では平地歩行よりも大きな筋力やバランスが必要になります。特に、手術側で身体を支える、片脚になる、重心を上下へ移動する能力が必要です。
術後早期の階段でよく使われる方法
上り:手術していない側の脚から上る→手術側→杖
下り:杖→手術側→手術していない側
いわゆる「良い脚から上る・手術側から下りる」という方法です。ただし、これは術後早期に用いられる代表的な方法であり、すべての方がずっとこの方法を続ける必要があるわけではありません。筋力・バランス・荷重能力が回復すれば、通常の交互昇降へ進める場合があります。
いつ普通に交互で上り下りできる?
これも術後何週間という期間だけでは判断できません。
確認したいのは、手術側で身体を支えられるか、階段を上るときに身体を大きく傾けないか、膝や腰で過度に代償していないか、下りで身体をコントロールできるか、痛みが強くならないかです。
特に階段を下りる動作は、身体をゆっくり支えながら重心を下げる必要があるため、上りより難しいと感じる方もいます。
② 靴下を履くのが難しい
THA後の日常生活で代表的な悩みの一つが、靴下の着脱です。
靴下を履くためには、股関節を曲げる、脚を開く、股関節を回旋させる、体幹を前へ倒すなど複数の動きが必要です。THA後の靴下着脱はADLだけでなく、退院後の生活満足度にも関係する重要な動作です。
無理に足先へ手を伸ばさない
術後早期や股関節に動作制限がある時期に、「早く自分で履けるようになりたい」と無理に前へかがむことはおすすめしません。状態によっては、ソックスエイド、リーチャー、足台などを利用します。自助具を使用することは、「自分でできていない」という意味ではなく、回復段階に合わせて安全に自立するための方法です。
靴下が履けない=股関節が硬いとは限らない
股関節の可動域はあるが動作が怖くて身体を固めてしまい足先まで手が届かない場合や、反対に体幹や骨盤で大きく代償して靴下を履いている場合もあります。「履けるかどうか」だけでなく「どのように履いているか」を見ることが重要です。
③ 靴を履く・脱ぐ
靴の場合は靴下以上に、前へかがむ、足元へ手を伸ばす、靴ひもを結ぶ、靴べらを使うといった動作が必要です。
術後早期では、長い靴べらを利用すると、股関節を深く曲げずに靴を履きやすくなります。また、スリッポン、面ファスナー式、靴ひもを毎回結ばなくてよい靴などを一時的に利用する方法もあります。大切なのは、便利な道具を使わずに頑張ることではなく、安全に生活できることです。
④ 床に座る・床から立つ
日本の生活では、畳、こたつ、布団、床での家事など、床生活が必要になることがあります。
人工股関節手術後に床へ座る場合、「最終的に座った姿勢」だけでなく、床へ下りる過程と、床から立ち上がる過程が重要です。
床へ勢いよく座らない
床へ座るときには、身体をゆっくり下げる必要があります。
股関節周囲筋や膝の筋力が十分でない場合、最後に勢いよく座り込んでしまうことがあります。この場合、手すり、椅子、ソファ、安定した台などを支持物として利用しながら段階的に練習することがあります。
横座り・割座には注意が必要な場合も
股関節術後では、座り方によって股関節に強い回旋が加わることがあります。
特に後側方進入後の割座などは注意が必要とする報告があります。ただし、すべての人工股関節術後で床生活が禁止という意味ではありません。自分の術式と主治医の指示を確認したうえで判断します(脱臼方向の詳しい機序はこちら)。
⑤ 布団生活はできる?
「ベッドではなく布団で寝たい」という方もいます。
布団生活では、床へ下りる、寝返る、起き上がる、床から立つまで一連の能力が必要です。ベッドに比べると床からの立ち上がりは難易度が高くなります。
そのため退院直後などは、一時的にベッドを使用する→身体機能の回復に合わせて床生活へ戻す、という方法も選択肢です。「今まで布団だったから、退院後も必ず布団」と考える必要はありません。
⑥ 椅子からの立ち上がり
低い椅子や柔らかいソファから立ち上がるときには、股関節を大きく曲げる必要があります。
術後早期や深い股関節屈曲を制限されている場合は、高めの椅子、硬めの座面、肘掛けのある椅子などが使いやすい場合があります。ただし、回復後も永久に高い椅子しか使用できないわけではありません。徐々に身体機能や主治医の指示を確認しながら生活環境を戻していきます。
⑦ 床の物を拾う
床に落ちたものを拾うとき、無意識に股関節を深く曲げてしまうことがあります。
術後早期には、リーチャーを使う、手術していない側を軸にする、支持物につかまるなどの方法が検討されます。重要なのは、物を拾うためだけに転倒リスクの高い姿勢をとらないことです。
⑧ 車への乗り降り
退院後、通院や買い物で車を利用する方は多くいらっしゃいます。
車への乗り降りでは、座席の高さ、車内の広さ、ドアの開き方、身体を回転させるスペースによって難易度が変わります。
乗るときの一例:
座席を可能な範囲で後ろへ下げる→まず座席へ腰を下ろす→身体と両脚をまとめるように車内へ向ける。片脚だけ車内に入れ、足を固定したまま身体だけを大きくひねる動作は避けた方がよい場合があります。
運転再開は別問題:
「車へ乗れること」と「自分で運転できること」は同じではありません。
運転再開については、手術側、運転操作能力、痛み、筋力、反応速度、使用している薬、主治医の判断などを考える必要があります。運転開始時期は自己判断せず、主治医へ確認してください。
⑨ 入浴・浴槽への出入り
浴室は、濡れて滑りやすい、段差がある、浴槽をまたぐ、手すりが少ないなど、転倒リスクが高い場所です。
人工股関節手術後では、股関節だけでなく、転倒しないことも非常に重要です。必要に応じて、浴室用椅子、手すり、滑り止め、浴槽台などを利用します。退院直後から無理に従来通りの入り方へ戻す必要はありません。
🔵 家族が全部やってしまうことにも注意
退院後、ご家族が心配して、靴下を履かせる、荷物をすべて持つ、階段を使わせない、家事をさせないなど、生活の多くを代わりに行う場合があります。
術後早期には必要なサポートもありますが、本人が安全にできる動作まですべて家族が行ってしまうと、生活そのものがリハビリになる機会が減ってしまいます。重要なのは「全部やってあげる」ではなく、どこまで本人ができ、どこからサポートが必要かを整理することです。
🔵 T-performanceでは「動作そのもの」だけを見ません
「階段が難しい」という場合、原因は股関節周囲筋の機能、手術側への荷重、バランス、膝の筋力、足首の動き、痛み、恐怖心など、人によって違います。T-performanceでは、評価→整理→順序設計→介入で考えます。
STEP 1|評価:
手術時期、主治医からの指示、痛み、股関節の動き、筋力、バランス、歩行、実際に困っている生活動作を確認します。
STEP 2|整理:
靴下が履けない場合、「股関節が硬いから」だけではなく、可動性、骨盤、体幹、動作方法、術後の不安、主治医からの制限まで整理します。
STEP 3|順序設計:
床生活へ戻りたい方なら、椅子から安定して立ち上がる→支持物を使って身体を低くする→安全に床へ座る→床から立ち上がる→実際の自宅環境へ近づける、というように段階を設定します。
STEP 4|介入・再評価:
必要に応じて、筋力練習、バランス、荷重、階段、立ち座り、床動作、靴下・靴、車への乗り降りなどを練習し、実際の生活の中で使える動作になっているかを確認します。
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🔵 痛みや異常がある場合は生活動作練習より受診を優先
急に強い痛みが出た
転倒後から痛みが強い
急に脚へ体重をかけられない
股関節や脚の位置がおかしいように感じる
創部の異常
発熱
脚の急な腫れ
息苦しさ・胸痛
がある場合には、階段や床動作などの練習を続けず、手術を受けた医療機関への相談を優先してください。
詳しい症状の見分け方は、人工股関節手術後の痛み・違和感が続くのはなぜ?をご参照ください。
🔵 まとめ|退院後は「歩ける」から「生活できる」へ
人工股関節手術後のリハビリでは、歩ける→退院するだけで終わりではありません。
その先には、階段、靴下、靴、入浴、床生活、車、買い物、家事、仕事、趣味があります。必要な能力は人によって違います。重要なのは、以前と同じ方法に無理やり戻すことではなく、現在の身体に合った方法から段階的に生活を再構築することです。
静岡市で人工股関節手術後の日常生活動作について相談したい方へ
T-performanceでは、人工股関節手術後など整形外科手術後の退院後・生活期リハビリに対応しています。
理学療法士が、手術からの経過、主治医からの指示、股関節・全身の身体機能、歩行、階段、床動作、靴下・靴、実際の生活環境、今後戻りたい活動を確認します。
「歩けるようにはなったけれど、生活でまだ困っている」という方へ
初回体験:60分 5,500円(税込)
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🔵 よくある質問
Q1.人工股関節手術後は階段を使ってもいいですか?
術後経過や身体機能によります。術後早期には手すりや杖を使用し、一段ずつ昇降する方法が指導されることがあります。主治医や担当理学療法士の指示を優先してください。
Q2.人工股関節手術後、靴下はいつから普通に履けますか?
一律には決められません。手術進入路、股関節の可動性、術後の動作制限などによって異なります。術後早期はソックスエイドなどの自助具を使用し、回復に合わせて方法を変更する場合があります。
Q3.床に座っても大丈夫ですか?
すべての人工股関節手術後で床座位が禁止されるわけではありません。ただし、座り方や床への移動途中で股関節に大きな回旋や屈曲が加わる場合があります。手術進入路や主治医の指示を確認してください。
Q4.布団で寝てもいいですか?
布団自体が一律に禁止されるわけではありません。ただし床からの立ち上がりには筋力やバランスが必要なため、退院直後はベッドの方が安全なケースもあります。現在の身体機能に合わせて判断します。
Q5.車はいつから運転できますか?
運転再開時期は手術側、術後経過、運転操作能力、服薬などによって異なります。自分で判断せず、主治医へ確認してください。
監修者
前田 幸亮 T-performance代表/理学療法士
– 理学療法士
– Spine Dynamics療法 上級認定セラピスト
– JCCA認定アドバンスドトレーナー
– JCCA認定ベーシックインストラクター
– 認定臨床栄養医学指導士
整形外科・回復期リハビリテーション領域での臨床経験を経て、現在は静岡市を拠点に、退院後・生活期の自費リハビリを中心とした支援を行っています。
※本記事は人工股関節全置換術後の日常生活動作について一般的な情報を提供することを目的としています。適切な動作方法や制限は、手術進入路、術後経過、身体機能、主治医の方針などによって異なります。手術を受けた医療機関・主治医から指示されている内容を最優先してください。